2026.08.10
親が認知症になると預金が引き出せない!?今すぐ知っておきたい「財産凍結」のリスクと対策
こんにちは。
中小企業の事業承継と相続に強い税理士法人アイユーコンサルティングです。
盛夏の候、本格的な夏の暑さが続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
「最近、親の物忘れが増えてきた気がして心配・・・」
「もし親が認知症になったら、病院代や介護費用はどうやって払えばいいのだろう?」
高齢のご両親を持つ子世代の方から、このようなご相談を受けることが年々増えています。
実は、親御様が認知症になって自分で正しい判断をする力(意思能力)を失ってしまうと、
銀行口座が事実上凍結され、ご本人のお金であっても自由に引き出せなくなってしまいます。
「実の子である自分が代わりに窓口へ行けば大丈夫」と思い込んでいると、
いざという時に医療費や介護費が支払えず、子世代が自身の貯金から多額の負担を強いられるケースがあります。
そこで今回は、認知症による「財産凍結」のリスクと、親御様が元気なうちにしかできない対策について分かりやすく解説します。
親が認知症になるとどうなる?
知っておくべき「財産凍結」の現実
親御様の認知症が進むと、「本人の意思能力が不十分である」と判断されてしまうため、
資産全般に関する手続きをスムーズに進めることができなくなってしまいます。
認知症によって直面する主なリスクは以下の通りです。
1. 銀行口座の凍結
銀行は、口座名義人の意思能力が失われたことを知ると、不正な引き出しを防ぐために口座を一時凍結します。
一度口座が凍結されると、たとえ同居しているご家族であっても医療費や介護費といったお金の引き出しが原則としてできなくなります。
(※全国銀行協会の指針に基づき医療費等に限り条件付きで認められるケースもありますが、手続きに時間を要し柔軟な対応は難しくなります。)
その結果、「親の介護費用は親の預貯金から支払う」という当たり前のことができなくなり、
お子様がご自身の預貯金から立て替えざるを得ない状況に追い込まれてしまうのです。
2. 不動産を売却できない
凍結の影響を受けるのは、預貯金だけではありません。
「誰も住まなくなった実家を売却して、親の老人ホームに係る入居費用に充てよう」と考えていても、
名義人に十分な意思能力がなければ不動産の売買契約を結ぶことができません。
3. 生前贈与ができない
相続税対策として検討される生前贈与も実行できなくなります。
贈与契約は「財産をあげます」「もらいます」というお互いの正しい意思表示があって初めて成り立つものです。
なぜ認知症で資産が動かせなくなるのか?
法律上の理由と「成年後見制度(法定後見制度)」の落とし穴
1 .「意思能力」がない契約や手続きが無効になる
民法では、契約を結ぶ際に「意思能力」が必要であると定められています。
認知症によって「意思能力」が失われた状態で行われた契約は、法律上無効となるため、
金融機関や不動産会社はトラブル防止のため取引を中断するのです。
2 .対策として知られる「成年後見制度(法定後見制度)」の限界とデメリット
「銀行口座が凍結されたら法定後見制度を使えばいいのでは?」と思われるかもしれません。
法定後見制度とは、判断能力が低下した方に代わって、家庭裁判所から選ばれた後見人が財産管理を行う仕組みです。
確かにこの制度を使えば預金の引き出しなどは可能になりますが、以下のような注意点があります。
| 項目 | 成年後見制度(法定後見)の注意点 |
|---|---|
| 制度の目的 | 本人の財産を守ること(減らさないこと)が最優先される。 |
| 財産管理の自由度 | 積極的な資産運用や売却、生前贈与などは原則認められない。 |
| 発生するコスト | 弁護士や司法書士等の専門家が後見人に選ばれた場合、 月額2万〜6万円程度の報酬が発生する。 |
法定後見制度はあくまで本人の財産を守るための制度であり、
家族による柔軟な財産管理や節税対策を行うための仕組みではないのです。
親が「元気なうち」にやるべき!資産を守る対策
親御様が元気で判断能力がしっかりしている今だからこそ打てる対策があります。
代表的な2つの手法をご紹介します。
対策①:自由度の高い資産管理ができる「家族信託」
認知症対策として最も注目されているのが家族信託です。
親御様(財産を託す人)が信頼できるお子様(財産を管理する人)と契約を結び、財産の管理や処分の権利をあらかじめお子様に託しておく仕組みです。
万が一親御様が認知症になっても、お子様の判断で預金の引き出しや実家の売却などをスムーズに行えます。
財産の管理権だけをお子様に移し、家賃収入や売却益などの利益は親御様が受け取るという設計が可能です。
対策②:将来の管理者をあらかじめ決めておく「任意後見制度」
裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」とは異なり、親御様が元気なうちに「自分が認知症になったら、この人に後見人になってほしい」と公正証書で契約しておく制度です。
介護施設の入所手続きや病院の手配といった身の回りの手続きを法律的に任せたい場合に有効な選択肢となります。
対策③:銀行手続きをスムーズにする金融機関の「代理人サービス」
親御様が元気なうちに、特定の金融機関で代理人を指名しておく方法です。
万が一親御様が認知症になっても、あらかじめ指定された代理人が生活費や医療費の引き出しを行えるようになります。
認知症対策で最も大切なのはタイミングです。
一度認知症が進行して意思能力を失ってしまうと、家族信託も任意後見制度も活用できなくなります。
親御様が普段通りの会話や買い物を問題なくこなせている「今」こそが、将来に備える最大のチャンスです。
ただし、認知症対策は単に書類を作成すれば終わりではありません。
「家族信託の設計が不十分で、結局不動産を売却できなかった(※1)」
「意図せず納税が必要となった(※2)」といった失敗を防ぐためには、専門的な視点が不可欠です。
※1 委託者から受託者に売却権限を与えていない場合、第二受託者を指定せずに権限を与えられた受託者が死亡した場合や病気になった場合などが想定されます。
※2 「他益信託」となることを想定しています。委託者≠受益者となる信託を「他益信託」といい、契約時に受益者に対して贈与税が課税されます。
一方、委託者=受益者となる信託を「自益信託」といい、契約時には贈与税が課税されません。
ただし、相続開始時に第二受益者又は残余財産の権利帰属者に対して相続税が課税されます。
認知症による財産凍結の回避については、司法書士の分野となりますが、
並行して税理士に相続税試算を依頼することで最適な生前対策プランの立案ができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は認知症になった際のリスクと、今すぐ始めるべき対策について解説しました。
一口に認知症リスクへの備えといっても、事前対策で利用できる制度と事後的に利用できる制度ではできることが大きく異なります。
それぞれの特徴とメリット・デメリットを以下の比較表にまとめました。
ご家族の資産状況や目的に合わせて、最適な手段を選択する参考にしてください。
※表は左右にスクロールできます→
| 項目 | 時期 | 費用面 | メリット | デメリット | |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期費用 | 維持費用 | ||||
| 家族信託 | 親御様が認知症になる前 (意思能力あり) |
約30~100万円 専門家報酬、登記費用等 |
0円 ※信託管理人を立てる場合には 別途報酬発生 |
任された親族による 預金引き出しや不動産売却が 可能 |
争いの要因になりやすく、 契約設計を誤ると 贈与税リスクが生じる |
| 任意後見制度 | 親御様が認知症になる前 (意思能力あり) |
約15~35万円 公証人手数料、専門家報酬、 裁判所申立て費用等 |
月額約1〜8万円 任意後見人報酬、 任意後見監督人報酬 |
本人が指定した後見人による 財産管理及び 介護・医療手続きが可能 |
本人が行った契約を 後から取り消しできない |
| 代理人サービス | 親御様が認知症になる前 (意思能力あり) |
約0〜2,000円 カード発行手数料等 |
0円 | 金融機関の窓口等で 手軽に手続きでき、 本人が指定した代理人による 預金の引き出しが可能 |
指定金融機関の口座のみが 対象となるため、他行口座の 管理や不動産売却ができない |
| 法定後見制度 | 親御様が認知症になった後 (意思能力なし) |
約15〜45万円 専門家報酬、 裁判所申立て費用等 |
月額約2〜9万円 成年後見人報酬、 成年後見監督人報酬 |
裁判所が選任した 後見人による財産の保護及び 生活の保護が可能 |
財産の保護を最優先する 制度であるため、積極的な 節税や不動産売却ができない |
| 全国銀行協会指針に 基づく預金の引き出し |
親御様が認知症になった後 (意思能力なし) |
実費のみ 医療機関等の証明書発行費用 |
0円 | 親族による介護・医療・ 生活費のための預金の 引き出しが可能な場合がある (本人の利益のための 緊急な引き出しに限られる) |
全ての金融機関が一律の 対応をするとは限らず、 手続きに時間を要する |
親御様の大切な資産を守り、ご家族全員が安心して将来を迎えるためには、元気なうちの備えが何よりも重要です。
これを機に将来の資産管理について、ご家族と話してみてはいかがでしょうか?
税務や相続に関するご相談は、アイユーコンサルティンググループまでお気軽にお問い合わせください。






















