2019.06.26
「空き家になった実家、賃貸するか、売却するか?」
こんにちは。 中小企業の事業承継に強い税理士法人アイユーコンサルティングです。
昨今の空き家問題は、国や地方自治体も頭を悩ませています。倒壊の危険性や衛生上の問題、また都市の景観を損なっているなど、特定の空き家に対して行政上のメスが入ることも避けられない状況となってきました。
この20年で空き家の総数は1.8倍(448万戸から820万戸へ増加)となり、さらに15年後には空き家が2,000万戸を越えるといった試算がなされている背景があります。
かつて不動産を持っていることがステータスだった時代から、不動産=お荷物となりかねない時代になり、今後の資産保有の仕方が一層注目されています。
~事例~
都内でとある企業の営業部長を任されているAさんは、現在48歳。10年間務めた以前の会社を転職し、今の会社に入社後、総務部、営業企画部を経て、現在は花形部署でもある営業部でその辣腕をふるっている。会社の業績は順調で、Aさんの社内での評価も非常に高く、最年少での次期役員候補としての呼び声も高い。プライベートも充実しており、2人の愛娘は今年の春に高校、大学とそれぞれ志望校に合格をし、A家の受験戦争も一旦終結を迎えていた。
公私ともに順風満帆の生活を送っているAさんだが、最近ひとつ気がかりとなっていることがあった。実家の空き家問題である。
父は10年前に早逝し、N県内の実家でずっと母が一人暮らしをしていたが、その母も4年前に他界。それまでは、忙しい仕事の合間をぬって、母が暮らす実家に年数回は帰省していたが、母が他界してからは実家に足を運ぶことはなくなってしまった。
生まれ育った実家は、祖父の代に建てられた木造二階建ての住宅で、母の生前中は手入れも行き届いておりそれなりに小ぎれいであったが、それでもところどころ老朽化していた。壁や塀は一部にゆがみが生じ、万が一地震でもあれば倒壊の危険性もあった。母の死後は誰も寄り付かず手入れも一切していなかったのだから、いつどうなるか分からないことは想像に難くない。兄弟のいないAさんにとって実家をどうするか相談する相手もいなかったのだが、それでも思い出の詰まった実家であり、特に近所から苦情が出たという話もなかったためそのままの状態で放置していた。
異変に気付いたのは固定資産税の通知書が届く今年の5月。実家の土地建物の固定資産税の金額が昨年に比べて高くなっていることがきっかけだった。昨年までは毎年5万円くらいの税金だったのに、今年から25万円近くなっている・・・?
思い返してみると、以前に市役所から特定空家がどうとかいう連絡があったかもしれない。すぐに窓口に電話をして調べてみると、次のような計算によって税金が計算されていることを教えてもらった。
昨年 固定資産税評価額 2,400万円 × 1/6 = 固定資産税課税標準額 400万円
固定資産税額 = 400万円 × 1.4% = 5.6万円
今年 固定資産税評価額 2,400万円 × 70% = 固定資産税課税標準額 1,680万円
固定資産税額 = 1,680万円 × 1.4% = 23.5万円
どうやら特定空家というものに指定され、その後適正な処置をせずに放置していたために固定資産税の優遇措置が受けられなくなったことが原因のようだ。仕事も忙しく、そんな勧告を受けていたことに気づいてすらいなかった。
このまま毎年、住んでもいない空き家に毎年25万円近い税金を払っていかなければならないと思うと、いくら思い出が詰まった実家だとはいえそうも言っていられない。
田舎なだけにすぐに買手がつくとは考えにくく、売れたとしても税金や仲介手数料などで手元に残るお金はほとんどないのではないか。かといって、ずっとお荷物として抱えているだけで毎年多額の税金がかかってくる。建物を解体するにしても、それなりの費用がかかるようだ。
悩んだ結果、知り合いから紹介された不動産業者に賃貸をすすめられた。利益はほとんど出ないが月3万円くらいなら借りたい人もいるとのこと。傷んだ箇所の修繕に多少の費用はかかるが、毎年の固定資産税が払えるならそれでも、と軽い気持ちで契約をした。それが後々大きな落とし穴に・・・
相続した空き家をどのように次世代に引き継ぐか、活用するか、処分するのか。空き家をそのまま放置するのではなく、どのようにしていくのかを積極的に考えなければいけない時代となってきました。
平成27年5月に施行された空家等対策特別措置法により、特定空家に対して固定資産税の優遇措置が適用されない一方、平成28年度税制改正で創設された空き家に係る譲渡所得の特別控除によって、空き家を市場に還元しようとする動きが活発となってきました。
相続した空き家を売却する際に3,000万円までの非課税枠が利用できる可能性がある一方、Aさんのように賃貸することでその特例が受けられないケースも見受けられます。
Aさんは結局実家を売却することとなり、3,000万円の特別控除が受けられないために数百万円の税金を支払うこととなりました。払わなくてもよい無駄な税金がかからないように、将来どうしたいのかを明確にするとともに専門家に相談することも大切です。
できることならば親が元気なうちに将来のことを話し合い、大切な実家を空き家としないような方法を早めに模索することも、相続対策として有効な手段かもしれません。
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